信号・電源分離ユニットの製作 (2006/08/10)
8月10日現在,高速電力線通信の規制緩和は電波監理審議会で検討中です.従って,電力が重畳している線に短波帯のデータ信号を伝送すると電波法違反です.といっても,高速電力線通信信号のスペクトラムとかには興味があります.そこで,通信信号と電源を分離するユニットを製作し,信号のみを抽出して,信号の時間領域や周波数領域を見てみたいと思います.
下の写真は,アメリカで販売されている電力線通信用モデムである,Netgear XE104 85Mbps Wall-Plugged Ethernet Switchです.PHY層の伝送レートが最大で85Mbpsで,イーサネットスイッチと一体化しています.一つは分解していないもの,一つは分解したものです.分解したものの左側が電源と信号を分離する部分とイーサネットスイッチになり,右側は電力線通信用のPHY層とMAC層のチップがあります.なお,分解には,T-9Hのトルクスドライバーが必要になります.トルクスドライバーは近くのホームセンターで購入できると思います.購入することは可能ですが,これをその辺のコンセントにつなげてデータのやり取リをすれば,電波法違反になりますので,注意して下さい.
さて,信号・電源を分離するには,要は信号側端子にはハイパスフィルター(HPF),電源側端子にはローパスフィルター(LPF)を作ればよいことになります.電源側のLPF(ACライン・ノイズフィルターと言われる)は,市販のもので安価で性能がよいものが出ているので,自作せずにそちらを使用することにします.秋月電子通商より,NEC/TOKINのGL-2080FVP-T1を購入しました.信号側端子のHPFとして,次数が3次のものと1次のものを設計しました.非常に簡単ですが,下が回路図となります.
表は今回のために購入したものです.
商品名 | メーカー名 | 型番 | 単価 (円) | 数量 |
---|---|---|---|---|
チップコンデンサ, 3.3nF, 200Vdc | 村田製作所 | GRM55N2C2D332JY21B | - | - |
面実装インダクタ, 10μH, 2A | Wuerth Elektronik | 74454010 | 310 | 5 |
ACノイズフィルター | NEC/TOKIN | GL-2080FVP-T1 | 150 | 5 |
プラスチックケース | タカチ電機 | SS-N125G | 470 | 5 |
ACアウトレット | サトーパーツ | S-80 | 50 | 5 |
めがねACインレット | マル信無線電機 | MJ-27S | 100 | 5 |
2P-3P ACコード | - | - | 110 | 5 |
ACコード 1.8m (メガネプラグ付) | - | - | 110 | 5 |
単芯ケーブル, 24AWG, 黒 | Alpha Wire | 5854/7-BLACK-30M | 1,900 | 1 |
単芯ケーブル, 24AWG, 白 | Alpha Wire | 5854/7-WHITE-30M | 1,900 | 1 |
単芯ケーブル, 24AWG, 赤 | Alpha Wire | 5854/7-RED-30M | 1,900 | 1 |
銅箔テープ | - | - | - | - |
下の写真は,製作後の信号・電源ユニット(HPFが次数1のもの)の中身です.
電力線通信モデルが接続するポートをModem Port,電源を供給するポートをPower Port,高周波信号が流れるポートをSignal Portと呼びます.研究室のネットワークアナライザAgilent 8712ETでModem PortからPower Portへの伝送レスポンスを測定しました.このとき,Signal Portはオープンとします.また,図中の"1st order"は次数1のHPF,"3rd order"は次数3のHPFを示します.
電力線通信モデムの電力スペクトラム密度は-55dBm/Hzから-60dBm/Hzですので,次数1のものでも背景雑音レベルに減衰していることが分かります.次に,Modem PortからSignal Portへの伝送レスポンスを測定しました.このとき,Power Portに擬似電源回路網(AMN)などを接続して測定する方が好ましいかも知れませんが,今回はPower Portはオープンとしました.
電力線通信モデムの使用周波数帯は4.3MHzから20.9MHzですので,グラフより十分に信号が通過することが分かります.これらの結果から,次数1でも十分な特性が得られています.これからは,HPFの次数が1の信号・電源分離ユニットを利用していきます.さて,次は,通信を行うための伝送路の構築,測定データを集めるための準備をしていきたいと思います.
(追記 2006/08/18) 複数のADSLのスプリッタを利用すると,FAXができないなどの障害が起こることがあります.
スプリッタの複数使用は諸悪の根源複数のスプリッタを利用することで,周波数が共振してしまう現象があるようです.今回の信号・電源分離ユニットの場合でも,電力線通信モデムのアナログフロントエンド(AFE)との間で同じようなことが起こる危険性があるかも知れません.そこで,信号・電源分離ユニットに電力線通信モデムを接続した上で,Signal PortからPower Portへの透過特性をネットワークアナライザAgilent 8712ETで測定しました.利用した電力線通信モデムは,前述のNetgear XE104 85Mbps Wall-Plugged Ethernet Switchです.測定時の写真です.
測定結果は,次のグラフです.
電力線通信モデムが信号周波数帯でインピーダンスマッチングがとれているためか,かなりの減衰量が得られています.従って,信号・電源分離ユニットと電力線通信モデムのAFEの組み合わせによって,電力線側にデータ信号が通過するようなことはないものと思われます.
梅原 大祐 / UMEHARA Daisuke umehara@kit.ac.jp Last modified: 2020/05/02 13:08