ノイズカットトランスの二次側のコールドを接地するか? (2007/06/13)

屋内電力線通信の実験やデモンストレーション環境として,実験室に写真にあるような簡易なVVFケーブルによる電力線モデルを作成しています.

PLC system

現在,いくつかのPLCモデムが販売されています.電力線モデル上でデータの伝送特性を調べていきたいと考えています.測定環境の一つとして,電力線モデル上に屋内電力線からの高周波ノイズがのらないような環境を作ろうと考え,ユニオン電機 ノイズゼロトランス MNR-9を購入しました.

Transformer

右図のように,柱上トランスの二次側とトランスの鉄心はアースされています.ノイズカットトランスの二次側をアースしたほうがよいのでしょうか?そこで,二次側を大地から浮かせた状態ではどのようになるのかについて調べました.

左下の写真が,浮かした状態でのノイズカットトランスです.右下はコンセント(National WK 1512K 接地15A露出ダブルコンセント)の写真で一般的に,長い方がコールド(VVFケーブルで白い線に相当,柱上トランスで接地),短い方がホット(黒い線,赤い線に相当)になっているはずです.ここでは,コールドをN(ニュートラル),ホットをL(ライブ),大地をG(グラウンド)で表します.大地は,フリー・アクセス・フロアの鉄板の部分としました.ノイズカットトランスの一次側及び二次側のL-N間,L-G間,N-G間の電圧をアナログテスターで測定しました.

MNR-9 Outlet

結果は次の表です.括弧の中は,アナログテスターのレンジを表します.

  1次側(AC120V) 2次側(AC120V) 2次側(AC300V)
L-N間 103V 107V 106V
L-G間 97V 4V 11V
N-G間 2V 6V 15V

二次側はホット側,コールド側に依らず,大地との間に一定量の電圧が観測されます.値が小さいのは,浮いているため,対地抵抗が極端に大きいことが原因と考えれます.ここで,簡単のためホット側の対地抵抗とコールド側の対地抵抗が同じであると仮定して,二次側における,対地抵抗値RG [Ω],ホット側の電圧の実効値VL [V],コールド側の電圧の実効値VN [V]を求めてみましょう.AC120Vレンジの二次側の測定値を使います.アナログテスターの交流電圧レンジの内部抵抗は,9kΩ/Vとなっています.従って,AC120Vレンジの内部抵抗は,120V x 9kΩ/V = 1080kΩです.このとき,次の三つの方程式ができます.

VL + VN = 100V
VL x 1080kΩ / (1080kΩ + RG) = 4V
VN x 1080kΩ / (1080kΩ + RG) = 6V

これらの方程式を解くと,RG = 10.5MΩ, VL = 42.8V, VN = 64.2V になります.この結果,AC300Vレンジの内部抵抗値2700kΩで予想される測定値は,L-G間が8.8V,N-G間が13.2Vとなります.実際の測定値とは異なりますが,オーダ的にはいいところにいっているのではないでしょうか.以上のことから,二次側では,次の図の電圧の加わり方をしているものと思われます.

AC Current

自分の右手と左手の間の抵抗をアナログテスターで測定したところ,約500kΩでした.手を水で濡らした状態で約50kΩでした.もちろん,二次側のホット側,コールド側のどちらを触っても感電しますが,それは一次側のホット側を触っても同じです.二次側のコールド側を接地した場合,二次側のホットとグラウンド間にAC100Vが測定されました.二次側のコールド側を接地したほうがよいのでしょうか,それとも,接地しないほうがよいのでしょうか?

通常利用の場合,コールド側を接地してしても接地しなくてもよいのではないか,と思います.ただし,今回の電力線モデルは,電力線通信モデムの伝送特性を調べるためのものです.ノイズカットトランスの挿入で,2M-30MHz帯の電気的平衡度が悪くなるのは好ましくないように思います.従って,今回の利用用途を考えた結果,接地しないで利用することにしました.

ただし,ノイズカットトランスの筐体と緑の接地線はつながっているほうがよいかも知れません.確認していませんが,高周波的にコイルと筐体が短絡されていれば,二次側で発生したコモンモードノイズが一次側にある漏電ブレーカ側を通過しないようになります.そのため,ノイズカットトランスの筐体と短絡している接地線があるほうを二次側としました.


梅原 大祐 / UMEHARA Daisuke umehara@kit.ac.jp
Last modified: 2020/05/02 13:08
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