アンチエイリアシングフィルタの設計 (2006/08/24)

電力線上に流れる雑音をデジタルオシロスコープで観測します.電力線には,パルス性の断続的な雑音が乗ります.雑音信号を解析をするため,ロングメモリを持つYOKOGAWA DL1640L(最長32Mワードを記録)を使用します.

観測したい雑音の周波数帯域は,電力線通信で使用される予定の2MHz-30MHzを含む形にします.DL1640Lは帯域制限できるのは,10kHz, 20kHz, 40kHz, 80kHz, 320kHz, 640kHz, 1.28MHz, 20MHz, 200MHz(Full)です.これらの周波数で3dB減衰するようにローパスフィルタ(LPF)を設定できます.今回は2MHz-30MHzを通過帯域にしたいため,200MHz(Full)を選択します.周期的信号ではないため,単発現象の測定になります.単発現象の周波数帯域は,DL1640Lのユーザーズマニュアルによると"DC〜サンプリング周波数/2.5"です.動作させるサンプリング周波数は200MS/sなので,200MS/s÷2.5=80MHzで3dBの減衰になります.エイリアシングによる折り返し歪みを起こさせないためには,8ビット分解能ですので,100MHzで20log10(28)=48.2dBの減衰が必要です.80MHzで3dBの減衰では,アナログ領域の100MHzで48.2dBの減衰はできていないものと思われます.

以上のことから,100MHzで48.2dB減衰のアンチエイリアシングフィルタを設計し,製作する必要があります.通過域はできるだけ広い周波数帯域にしたいため,2-60MHzとします.通過域の低い周波数をカットするのは結合回路により,実現できます.そのため,60MHzを通過域とするローパスフィルタ(LPF)の設計を行います.

アンチエイアシングフィルタの設計には,

LCフィルタの設計&試作 - コイルとコンデンサで作るLPF/HPF/BPF/BRFの実際 -,森 栄二 著,CQ出版社
を参考としました.実践主体の書籍で,理論が分からなくてもLCフィルタの設計が手軽にできます.通過域を60MHzとし,100MHzで48.2dBの減衰を達成するためには,バタワースフィルタではフィルタの次数が大きくなりすぎるので,次数9のエリプティックフィルタを用います.等リップル帯域(1/2π)Hz,入出力インピーダンス1Ω,リプル0.01dB,次数9の正規化エリプティックフィルタは,

Normalized Elliptic LPF

となります.設計するアンチエイリアシングフィルタは,等リップル帯域60MHz,入出力インピーダンス50Ωですので,

M = 80MHz ⁄ (1/2π)Hz = 5.03 x 108, L = 50Ω ⁄ 1Ω = 50
を計算して,
C1C1 = 0.81446F ⁄ MK = 43.208pF
C2C2 = 1.80436F ⁄ MK = 95.724pF
C3C3 = 1.90579F ⁄ MK = 101.11pF
L1L1 = 1.42706H ⁄ M x K = 189.27nH
L2L2 = 1.71254H ⁄ M x K = 227.13nH
と素子の値が定まります.実際には村田製作所から購入するので,次のチップコンデンサ,チップコイルを使用します.

商品名 型番 包装単位数 価格(包装単位)
C1 チップコンデンサ, 47pF, 100Vdc GRM2192C2A470JZ01B 100個 2,000円
C2, C3 チップコンデンサ, 100pF, 100Vdc GRM2162C2A101JA01B 100個 1,700円
L1 チップコイル, 180nH, 140mA LQW18ANR18G00Q 100個 2,000円
L2 チップコイル, 220nH, 120mA LQW18ANR22G00Q 100個 2,000円

最終的な回路構成は次のとおりです.

Elliptic LPF

さて,これらの素子によるアンチエイリアシングフィルタの周波数特性を「トランジスタ技術 2003年11月号」に附属していた高周波回路&電磁界シミュレータ S-NAP/Suite Liberal Editionで確かめてみましょう.試していませんが,MELの回路シミュレータ(S-NAP/Pro)評価版で同じことができると思います.次のようにコンデンサ,コイルを配置して結線します.

S-NAP PrtSc - 1

解析結果は次のとおりです.青色はS21で透過特性,紫色はS11で反射特性です.100MHzで48.2dB以上の減衰を達成していることが分かります.

S-NAP PrtSc - 2

ついでに,次が透過特性のスミスチャートです.

S-NAP PrtSc - 3

現在,チップコンデンサの納品待ちです.アンチエイリアシングフィルタを製作したら,また,掲載したいと思います.


梅原 大祐 / UMEHARA Daisuke umehara@kit.ac.jp
Last modified: 2020/05/02 13:08
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